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マリアの爪痕 32.誕生!悪戯仕掛人 暦は2月を迎え、はすっかり休暇前の元の生活を取り戻していた。一人の時間が減り、友人たちと過ごす時間がほとんどで、そんな楽しい時間は流れるように去っていく。 クリスマス休暇とは違って、セブルスと話す機会もめっきり減った。たまに図書館で見かける彼に声をかけ、隣で本を読む程度だ。あとはジェームズやシリウスが変に突っかかってセブルスと喧嘩をしたり、それをリリーが怒ったり。 そんな毎日を送っていた。 「おはよう、リーマス」 鳶色の髪が揺れ、ソファに腰かけているリーマスが穏やかな笑顔でとリリーを出迎えた。隣にはうとうとした表情のピーターがおり、小さくおはようと声をかけてくれた。 「・・・・・・珍しいわね、ポッターとブラックはどうしたの?」 普段ならばリーマスの正面に座って、朝の閑談を楽しんでいるはずのジェームズとシリウスの姿がない。は珍しいな、と思う反面、昨年のある日の朝のことを思い出した。 昨年のハロウィンのことだ。彼らは今日と同じように朝から姿を見せず、大広間のテーブルについた途端、とリリーの二人に目隠しの悪戯をしかけた。リリーも真っ先にそのことを思い出したらしく、警戒心たっぷりに辺りを見回している。 「ああ、昨夜遅くまで起きていたみたいでね、シリウスがなかなか起きないんだ。ジェームズが今必死に起こしてるところだよ」 「まぁ、そうなの?」 毎朝寝起きの良くないシリウスのことだ。夜更かしなどしては寝坊してしまうのも無理はない。だが遅刻して朝食を食べ損ねたりしたら大変だ。は心配そうに男子寮を見上げるが、リーマスとリリーに二人なら放っておいても大丈夫だと諭され、しぶしぶグリフィンドール塔をあとにした。 大広間の天井はすっきりとした青空だった。今日の実際の空が厚みのある灰色の雪空だからだろうか、青い空はなんだか久しぶりで眩しく感じられる。 はリリーの隣に座り、グリフィンドールの食卓についた。しばらくは四人で穏やかに朝食を食べ、先日行われたグリフィンドール対スリザリンのクィディッチの試合の話をしていた。 以前シルフが言っていたように、スリザリン戦は一筋縄ではいかず、グリフィンドールの選手たちは苦戦を強いられた。しかし、奪われた得点をようやく奪い返し、また奪われそうになっていたときのことだ。シーカーであるシルフが金のスニッチを掴み、グリフィンドールを勝利に導いたのだ。 そのとき自分がどこにいたどの選手を見ていたのか、四人は互いにその思い出を語り合った。リーマスはシルフがスニッチを掴んだ瞬間を見たらしいのだが、は残念ながらそのとき、グリフィンドールのチェイサーであるレベッカ・ドイルに気をとられていたため、その瞬間を見逃していたのだ。気になっていたファインプレーの瞬間のことを聞いていたそのとき、の頭上をいくつもの風が過ぎ去っていく。 「今日の郵便はとても豪華ね!」 そう言ったリリーは、嬉しそうに何羽かのフクロウたちから小包を受け取っていた。そしてそれはも同じで、自分の周りに降り立つ2羽のフクロウから荷物を受け取っていく。 一つは小さな花束に手紙が添えられたもの、もう一つはバレンタインデーカードと一輪のバラだ。二つとも差出人の書かれていない、バレンタインデーらしい贈り物だった。花束に添えられた手紙には、見慣れた義父の字が並んでいるので、これはディストからの贈り物だと推察できる。しかし、この一輪のバラは誰からの贈り物だろう?特に心当たりもなく、は首を傾げた。 「あら、それはお父様から?」 「うん・・・・でも、こっちのはわからない」 「他の人に心当たりはないの?」 リリーの問いかけに、は首を振った。親戚は他にいないし、ましてや友人関係も乏しいのだ。他に贈り物をくれるとすれば、ジェームズやシリウス、リーマスにピーターの四人くらいだろう。 「これ、リーマスたちから?」 「え?いや、違うよ」 日刊預言者新聞に目を通していたリーマスは顔を上げ、申しわけなさそうにそう言った。 リーマスたちからでないとすれば、いったい誰から? 差出人のないバレンタインデーカードには、綺麗な字体で「Happy Valentine's Day」とだけ書かれていた。そのカードの裏表を確認し、がうーんと唸った途端のことだ。 「、リリー!伏せて!!」 普段は温厚なリーマスが、何やら身を屈めて二人にそう叫んだ。 そして突然、ドカーンと大広間の天井で爆発が起こり、派手な爆音と爆風を巻き起こした。思わず誰もが驚愕し、色とりどりに輝くおかしな煙に咽た。たくさんの悲鳴や叫び声が響き、突如大広間は喧騒に包まれる。 間一髪のところで身を低くし、爆風に耐えていたはそっと顔を上げ、天井に浮かぶ二人の人影をその瞳に捉えた。 それは、箒に跨って悠々と偽の空を飛んでいるジェームズとシリウスだった。 「お食事中のみなさん、ごきげんよう!」 芝居のかかった口調でそう言ったのはジェームズだ。隣ではリリーが煙に咽つつ、「あの人たち、いつの間にあんな所に?!」と二人を睨みつけている。 「今日もいつもと何ら変わりのない、普通の学校生活が始まります」 爆煙が治まり、今や誰もが釘付けとなってジェームズとシリウスを見つめていた。 教員席でマクゴナガルが叱責を飛ばそうと立ち上がったが、隣に座るダンブルドアがそれを好々爺とした表情で宥めている。どうやらダンブルドアはこの後の二人の行動に興味があるらしい。 大広間を包むざわざわとした雰囲気に、二人は臆してもいない様子だった。むしろ輝いた表情で言葉を紡ぎ続けている。 「でも、それだけじゃあ楽しくない」 「そのとおり!みなさんも当然そう思っていることだろう!」 「だから俺たちは、もっと学校生活を楽しくするため、ここにこう宣言する!」 「我ら悪戯仕掛人は、日々みなさんに楽しいサプライズを届けよう!・・・ってね」 悪戯ににっこりと笑ったジェームズは、ウインクまでしていた。その姿にリリーが憤然と立ち上がり、「最低ね!」と赤い髪を揺らす。 しかし、大広間にいる生徒たちの反応は様々だった。手を叩いて笑う者、はやし立てるように口笛を吹く者。そしてスリザリンでは馬鹿にしたように悪態吐く者が多く、女の子たちのほとんどはくすくすと笑って二人を見ているだけだった。 「今日はそのオープニングだよ!」 「それじゃあ・・・」 「「ハッピー・バレンタイン!!」」 二人は杖を振り、異口同音にそう叫んだ。 「・・・・・・花・・・?」 誰もが警戒して身を屈めたにもかかわらず、二人が与えたサプライズは色とりどりの花の雨だった。天井から止めどなく降ってくる花に、思わず目を奪われる。 何の花だろう?わからないけれど、小さくてとても可愛い花だ。 はてのひらに優しく舞い落ちる花びらを見つめ、笑顔を綻ばせた。そんなの肩をリーマスがとんとん、と叩く。 「、リリー、ここから離れるよ」 「え?」 「どうして?」 「いいから、早くこっちに」 急いで、と二人を急かしながら、リーマスは二人の肩やら背中やらについた花を叩き落としていく。 何をそんなに急ぐ必要があるんだろう? の疑問は、この後すぐに解明されることになる。 リーマスにつれられ、とリリーは大広間の入り口にまで来ていた。天井では相変わらず笑顔のジェームズとシリウスが箒に跨っている。それを見たリリーはむっとした表情で腕を組んだ。 あれ?そういえば、ピーターの姿が見えないような・・? 「あの二人、こんなことをしていったい何を考えているのかしら!」 「で、でも、今日のはすごくいいと思うよ・・!」 「校内で箒に乗って、爆発を起こしたのよ?きっと後でマクゴナガル先生がお説教なさるわ!」 「いや、たぶん今からだろうね」 そう言ったリーマスの表情は、どこか苦笑混じりだった。 「さあ、余興を楽しんでいただいたところで・・・」 「本番行きますか!」 二人はまた杖を取り出し、同時に大きく振った。そしてその瞬間、大広間は再び悲鳴と叫び声に包まれる。その中でもモニカの悲鳴が一際大きく響き渡っており、は何事かと思い、辺りを見回した。その光景に、思わずも後退りをしてしまう。 その原因は、多種多様の昆虫たちにあった。先ほどみんなに降り注いでいたあの美しい花々が、すべて生々しい昆虫へと変貌を遂げていたのだ。これでは虫嫌いのモニカが悲鳴を上げて泣くのも当然だ。プラムが必死に虫を追い払っているものの、それでは追いつかない。大広間中の生徒たちがパニックに陥ってしまった。 この状況に、今度こそマクゴナガルから激しい叱責の声が上がる。 「ポッター!ブラック!」 その声を合図に、二人は一目散に大広間を飛び出て、どこか遠くへと飛んでいってしまった。高速で頭上を通り過ぎた二人の笑い声だけが、廊下に響いていた。 その後、ジェームズとシリウス、ピーターが授業に出てきたのは、三時間目のことだった。どうやらこってりマクゴナガルに搾られてきたらしく、ジェームズとシリウスはぶつぶつと文句を述べていた。 「ったく、ピーターが上手く扉を開かなかったからああなったんだぞ!」 「ご、ごめんね!二人とも・・!」 「まぁまぁシリウス、いいじゃないか。僕たちのデビューは華々しくできたわけだし、それで良しとしようよ!」 どうやら途中でピーターが姿を消していた理由は、二人の逃走路である校庭へ続く扉を開けておくためだったらしい。しかしピーターはフィルチに見つかってしまったようで、二人は最後まで逃走できなかったようだ。 しかも寮の得点は一人五十点も引かれてしまい、グリフィンドールの寮点は大幅に減ってしまった。 「あ、、リリー!どうだった?!今朝のサプライズ、面白かったろうっ?」 晴れやかに質問したジェームズをぎっと睨みつけ、リリーは黙って教科書を机に叩きつけた。その音があまりにも大きくて、思わずのほうが飛び上がってしまいそうだった。 「り、リリー?」 「ポッター、もうわたしたちに話しかけないでちょうだい」 「え?・・・え?」 「貴方たちの最低なお遊びに、わたしたちを巻き込まないでって言ってるの!もう移動教室も食事もつき纏わないで!」 「そ、そんなぁ!リリー!」 何度ジェームズが呼びかけても、リリーが応えることはなかった。その様子は耐えようもなくびくびくとしてしまう雰囲気で、はおろおろとシリウスとリーマスに視線を向けることしかできなかった。しかし、シリウスもリーマスも困ったように首を振るばかりで、どうすることもできないと意思表示をしている。 はリリーに気づかれないよう、そっと肩を落としたのであった。 |