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マリアの爪痕 31.重なる舌戦 今夜でクリスマス休暇が終わる。休暇が始まったばかりのときに感じていた憂鬱などすっかり忘れ去り、は休暇を楽しんだ。以前より先生や他寮の上級生と話せるようになったし、宿題もすべて終わらせ、思う存分読書もできた。何より、セブルスと過ごした図書館での時間は素敵な思い出だ。面倒なレポートも大変な雪掻きも、全部セブルスが傍にいてくれたからこそ淋しい思いをせずに過ごすことができた。 シリウスは「近寄るな」なんて言ったけれど、やはり彼を悪い人とは思えない。これまで受けた彼の優しさに感謝しながら、はベッドに沈み、ヴァイオレット色の瞳を閉じた。 「!ただいま!!」 「おかえりなさいっ、リリー・・!」 トランクを放り出して真っ先にやってきたリリーと抱擁を交わし、は満面の笑みでみんなを出迎えた。 「ただいま、」 「おかえりっ、リーマス」 「休暇は楽しめたかい?」 「うんっ。たくさん本が読めたし、他の寮の人たちとも仲良くなれたよ」 「それはよかった」 休暇前に見たものと変わらない、穏やかな笑みを浮かべてリーマスがやってきた。依然リリーに抱き締められていたは、たどたどしくも嬉しそうに休暇の報告をする。それを聞いたリーマスとリリーは、微笑ましそうに相槌を打ってくれた。 ずっとこの日を楽しみに待っていた。休暇中のみんなの土産話を聞きたいし、自分だって有意義に過ごせた休暇の出来事を話したい。さっそく何から話そうかと思案しかけたは、ふと何か物足りなさを感じ、辺りを見回した。その原因に気がついたは小首を傾げ、ぽつりと疑問を口にした。 「ジェームズたちはどうしたの?」 ジェームズとシリウス、それにピーターの姿がない。これはいったいどういうことなのだろうか。 「あぁ、三人なら今頃マクゴナガルのお説教を喰らっているんじゃないかな」 「えっ?」 少し困ったように頬を掻くリーマスに、思わずも声が出た。 どうして新年早々、しかも休暇明けの今日という日に、彼らはマクゴナガルに説教をされているというのだろうか。 心配そうに表情を暗くしたを見て、リリーが憤然と首を振った。 「が心配するようなことじゃないわ!だって自業自得なんですもの!!」 「自業、自得・・・?」 「あの人たち、休暇中に変な道具を買ったらしくて、それを汽車の中で爆発させたの!しかも人に投げつけたんですって!!信じられるっ?汽車が一度止まって大騒ぎになったんだから!」 「糞爆弾っていう、小規模な爆発を起こすものなんだけど・・」 「ポッターもブラックも本っ当に非常識!同じコンパートメントに座っていたらと思うと、今でもぞっとするわ!」 リリーの怒り様は凄まじいもので、もリーマスも宥めることができないほどだった。よほどの何かがあったのか、それとも不満が募りに募ったのか。どちらにしろ、ジェームズたちが帰ってくる前にリリーの怒りを鎮めなければ。 は苦笑しながらも、なんとかトランクを片づけるよう促した。未だ小言を零そうとするリリーの背を押し、女子寮へ向かう。しかしそのとき運悪く、ジェームズ、シリウス、ピーターの三人が寮の入り口からやってきてしまった。あまりのタイミングの悪さに、とリーマスは二人して大きく肩を落とした。聞こえてきたジェームズとシリウスの会話に、リリーの顔が大きく引き攣っていたからだ。 「やっぱりもっと小規模な爆発にしないと、小回りが利かないね」 「ああ。あれじゃ不必要に騒ぎが大きくなる」 「改良の余地あり、だね」 リーマスとリリーの話では、三人は新年早々マクゴナガルに説教をされていたはずだ。しかし説教を喰らってぐったりしているのはピーターだけで、ジェームズとシリウスはまるで新しい箒の試行から帰ってきたかのようにさっぱりとしている。あまつさえ、会話の内容には反省の色がない。それどころか「改良」という言葉を聞く限り、糞爆弾を使うのはこれが最後ではないということがわかる。二人は懲りずにまた何かをするつもりなのだろう。は喜ぶべき三人との再会を、素直に喜べなくなってしまった。 「・・っ貴方たち、いったい何を考えているの!!」 「やあリリー!さっきぶりだね!それに、!休暇中は元気にやってたかい?」 戸惑うの気持ちも知らず、そして怒れるリリーをものともせず、ジェームズは爽快な笑顔を浮かべて歩み寄ってきた。シリウスは未だ元気のないピーターを小突きながら、に小さく手を振った。 「休暇は楽しめたか?」 「うん・・っ、みんなからたくさん手紙がもらえて嬉しかったよ」 「そっか」 「それより!僕の贈った魔法動物図鑑はどうだったっ?」 「あ、あれすごく面白いよ。・・・たまにドラゴンが火を吹いて大変だけど」 ほんの少し焦げてしまったページを思い出し、はくすっと笑った。それを聞いたジェームズは上機嫌となり、得意げに胸を張っている。 「でもそれでちょっとしたスリルを味わえるだろう?」 「普通の人はスリルなんて求めないわ!貴方はどこかおかしいのよ!」 「やけに突っかかるね、リリー。まだ糞爆弾のことを怒ってるのかい?」 「当たり前でしょう!?隣のコンパートメントであんな爆発を起こされて、どれだけ驚いたと思っているの!!」 二人の言葉の応酬は長いものだった。ああ言えばこう言う、といった表現が正しいだろう。二人ともお互い意見を譲らないので、よけいに話が拗れていく。 そんなジェームズとリリーの口喧嘩を見ても、はなんだか微笑ましくさえ感じられた。久しぶりに感じるこのあたたかい雰囲気に、どこかほっとさせられる。みんな何も変わっていない。それがとても嬉しかった。 「さて、じゃあ二人は放っておいて、僕たちはトランクを置いてこようか」 「そうだな」 「・・あっ、シリウス!」 トランクを担いだシリウスを呼び止め、おずおずと灰色の瞳を見つめた。 「シリウスも、ありがとう・・!」 「え?」 「あの手鏡、すっごく綺麗で・・・本当に嬉しかった!」 ふんわりと微笑むに「おう」と一言応え、シリウスはどこか軽い足取りで寝室へと上がっていった。 夕食の時間になるまで、はずっとみんなの休暇の話を聞いていた。リリーのマグルの家族や妹のこと、リーマスのレポートの失敗など、ピーターが約束どおりに持ってきてくれたおいしいお菓子を食べながら、四人は夢中になって話し込んだ。久しぶりに過ごす友人たちとの明るい時間はとても楽しくて、に何度も笑顔を咲かせてくれた。一人の時間もいいけれど、やっぱり友人との時間は大切だ。 やがて、今までずっと男子寮にいたらしいジェームズとシリウスが談話室に下りてきて、「そろそろ夕食に行かないかい?すっかりお腹が減っちゃったよ」とみんなに提案した。もちろんリリーは一緒に行くことにいい顔をしなかったが、は久しぶりにみんなと食事がとれることが嬉しかった。 大広間へと向かう途中、は見慣れた黒い後ろ姿を見かけた。思えば今日はまだ一度も顔を合わせていなかったセブルスの後ろ姿に、は真っ先に駆け寄っていた。 「セブルス!」 突然駆け出したかと思えば、口にした名前も名前だ。そこにいた誰もが瞠目し、どこか嬉しそうなの背中に呆然とする。 「・・っキミ、いつのまにスニベルスなんかと親しくなったんだい!?」 はっとして我に返ったジェームズがそう叫び、とセブルスの間に割って入った。の真正面にはシリウスが立ち、セブルスを鋭く睥睨する。がおろおろすると同時に、今度はリリーがジェームズとセブルスの間に割って入っていく。 「ポッター!セブをそんなふうに呼ぶのはやめてちょうだい!」 「リリー、またキミはそんなヤツを庇って!いい加減こいつの肩を持つのはよしなよ!」 「貴方こそ、いい加減自分の愚かさに気づきなさいよ!」 珍しくジェームズまで声を荒げたものだから、これにはリーマスとピーターも口論を止めようと必死に二人を宥めた。だがそれでなくとも我が強い二人だ。なかなか収拾がつかない。なんだかとてもややこしいことになってしまった。は立ち往生し、その様子を見守ることしかできない。そのうえ、舌戦を始めたのはジェームズとリリーだけではないのだ。 「休暇中、に変なこと吹き込んでたんじゃねぇだろうな」 「お前には関係ない。くだらないことで僕に話しかけるな」 なんとシリウスとセブルスまで一触即発の状態ではないか。は今度こそ自分がどうにかしなければと、二人に声をかけようと口を開いた。 「あ、あの!二人とも・・っ」 「そこまでにしたまえ」 精一杯声を振り絞るの肩に、青白い手がのせられていた。驚いて頭上を見上げれば、そこには優雅な物腰での肩を抱くルシウスがいた。一瞬にして、シリウスとセブルスの顔がしかめっ面になる。 「、久しぶりだね。元気にしていたかい?」 「マルフォイさん・・・っお久しぶりです・・」 親しげに肩を抱かれ、は酷く戸惑っていた。こんなにも近い距離で見つめられたりすれば、とても心臓が持たない。 どんどん頬が赤く染まっていくを前に、シリウスとセブルスは睨む相手を変更した。ルシウスの大人の態度に、自分たちがどれだけ子どもっぽい醜態を曝していたかを知らされる。これはひとまずでも、いがみ合うのをやめるべきだと判断した。 「ゆっくり話をしたいんだが、今日は監督生の仕事があってね。もう失礼するよ」 「なら早くから手を放せ!」 「ブラック・・・君もそろそろ分別を弁えたほうがいい。こんなところで騒ぎを起こすものではないよ」 どこか冷めた表情でシリウスを見据え、ルシウスはを解放した。そしてセブルスの肩を叩くと、そのままセブルスと連れ立って先に大広間へと行ってしまった。言葉をかけられたシリウスはというと、酷く悔しがっているような、怒っているような表情でそこに立ち尽くしている。そんなシリウスの隣で溜息を吐いたのはジェームズだ。 「・・・嫌味なヤツだね」 「ああ。自分が年上だからって、余裕な顔しやがって・・!!」 よほど気が合うのだろうか。二人は口々にルシウスの気に入らないところを言い合い、大広間へと入っていった。その後ろには苦笑したリーマスとピーターも続く。はなんとかこの場が治まったことに安堵を覚えたが、でもすべてが解決したわけではないと気付き、溜息を吐いた。 「まったく、あの人たちったら!少しはあの落ち着いた態度を見習えばいいのよ!」 リリーがぶつぶつと大きめに小言を呟くものだから、は困ったように笑った。そして大広間へと歩き出す。 クリスマス休暇にセブルスと過ごしてみて、は本当の彼の一面を知った。不器用でも優しいところ。実は結構世話焼きなところ。口下手だけど、大切なことははっきり伝えてくれること。そんなところはきっと、ジェームズやシリウスが思っているような酷いものではないはずだ。 いつか、みんなが仲良くなれる日は来ないものだろうか? そんなふうに思いながら、は夕食の席についた。 |