24.会いたい人




はしきりに出入り口を見つめて狼狽していた。リリーに押し切られてジェームズとシリウスを置いてきてしまったが、本当にこれで良かったのだろうか。ジェームズは今夜のパーティーをとても楽しみにしていたのだ。それを知っていたのにも関わらず、何も言わずにここまで来てしまった。は二人に対して大きな罪悪感を募らせていた。

「・・まだ来ないね。ジェームズとシリウス」
「あら、そういえばそうね。今頃、まだ談話室でゆっくりしているんじゃない?」

元気なく言った自分に対し、軽くそう言った今のリリーは、とても魅力的な姿をしていた。
薄い桃色をしたレースがたくさんついているドレスローブを身に纏い、首元では愛らしい蝶の形をしているペンダントが金色に輝いている。いつもは下ろしている長い赤髪をポニーテールにしているのも、とてもよく似合っていると思った。女性らしさを醸し出したリリーの魅力に、自然と羨望の念が頭を過ぎる。
リリーのように大人っぽい容姿をしていたら、自分もあんなふうになれたのだろうか。
いいなぁという淡い羨ましさのままに、はワンピースの裾を握っていた。そんなの気持ちには気づかないリリーは、緑の瞳を出入り口に向け、小さく眉を顰めた。

「・・・とうとう来たみたい」

苦々しく溜息を吐いた彼女に倣って出入り口を見やれば、そこにはとてもハンサムな男の子二人組が立っていた。見慣れない黒い礼装を着込んだ友人二人をもっとよく見ようとするが、それは人込みによって遮られてしまった。ここまで走り込んできた二人は、肩で息をしながらも室内を見渡しては何かを探しているようだ。
かろうじて窺えた二人の様子に、はどうしたものかと一瞬だけ逡巡する。できれば二人と合流して、みんなでクリスマスパーティーを楽しみたい。しかしリリーの顔色を見れば、そうはいかないことが容易に想像できる。
クリスマスパーティーの会場は魔法薬学の教室であり、スラグホーンが魔法で煌びやかに装飾を施していた。いつの間に用意したのか、天井には大きなシャンデリアが下がり、地下室全体に光を灯している。光があるだけでも普段とはうって変わった印象を与えており、クリスマスツリーはもちろんのこと、たくさんの赤やら金やらの飾りが辺りをクリスマス一色に染め上げていた。置かれたテーブルには屋敷下僕妖精たちが用意したであろう、料理が所狭しと並べられている。その料理たちの濃厚な匂いが漂う中、隣にいたリリーはいそいそと隅へ移動を始めた。

「リリー?」
「あの人たちに捕まる前に、会いたい人がいるの」

初めはリリーの言っていることがよくわからず、疑問符を浮かべるだったが、部屋の隅で一人壁に背を預ける少年の姿を認識して、ようやく合点がいった表情をしてリリーの後へ続いたのであった。


「セブ!」

手を振りながら、リリーがセブルスの許へ歩み寄る。こちらに気付いたセブルスはリリーを見るなりふいに目線を逸らし、何やら口をもごもごとさせていた。だがすぐに冷静な表情に戻ると、彼はその黒い瞳で今度はの青紫の瞳を捉えた。思わずびくりと反応してしまったは、つい歩く速度を落としてしまう。何を言われるでもなく、ただ互いにかち合った目線を離すことはなく、沈黙だけが虚しく流れた。しかし、それはほんの数秒だけのこと。セブルスの正面へ辿り着いたリリーは、満面の笑顔で彼に接した。

「すぐ見つけられて良かったわ」
「ああ」
「このお洋服、似合うでしょう?友達が見立ててくれたのよ」
「・・そうか」

あ、とはその変化に気がついた。リリーの笑顔を見たセブルスの表情が、ほんの僅かだけ和んだのだ。
言葉こそ短く、素っ気無いものの、それらには柔らかなものが含まれていた。意外だな、などと思っては失礼だろうか。彼は表情の変化が乏しいようだから、ついそう思ってしまった。
初めて出会ったコンパートメントの中で、セブルスが自分に話しかけたことはなかったし、もそれと同様、彼に話しかけていない。だからとセブルスは、未だに会話したことはおろか、挨拶すらしていない間柄だった。セブルスの纏う雰囲気はあまり人を寄せつけないものだし、何よりあのときの自分は今以上に他人に対して臆病だった。先日はクィディッチの試合で対峙したこともあったが、試合中では目が合っただけで自分は身を竦ませてしまった。思えば自分は無意識に、セブルスに対して苦手意識のようなものを持っていたのかもしれない。そうなると、今彼の許へまでついていくのはどうしたものか。
複雑になってしまった考えごとに頭を悩ませたは、すぐ後ろを歩いてきた上級生が強く背にぶつかったことに対応できなかった。その拍子に、履き慣れていない靴の重心がずれてしまう。

「ふぇ・・・っ?」

ぐらりと世界が傾き、このままでは壁に顔面から衝突してしまうということだけがわかり、は慌てて重心を踵へずらそうと試みるが、時は既に遅すぎた。見事に爪先立ちになってしまい、前方へと体のバランスを崩す。

「っわわ・・・!」

しかし、つんのめった先には自分とは違う体躯をした人の身体があった。
目の前には黒曜石のように真っ黒な瞳に、同じ色の重そうな髪。そしてすこぶる機嫌の悪そうな土気色の顔だ。一気に体温が急低下した錯覚に陥るとともに、は元いた位置に立たされる。

、大丈夫っ?」
「う、うん・・」
「セブが受け止めてくれて良かったわ!あのままだったら壁に顔をぶつけていたもの!」

安堵するリリーの隣で、は正面のセブルスへと言葉を紡ぐ。
今思えば、これはもしかして。

「あの・・・」
「・・・・・・・」
「あり、あり・・・・・・ありが、とう・・っ」

がセブルスに対して初めて発した言葉に、彼はただ頷いて嘆息した。

「足元には気をつけろ。特にお前みたいな奴はな」

自分に初めて向けられた言葉は、酷く突っ撥ねたものだった。しかし、リリーと話しているときのような表情ではないが、セブルスとまともに言葉を交わすことができた事実に、は自然と顔を綻ばせた。
突然微笑まれたセブルスはというと、一瞬だけ面食らったような顔をした後に、ぼそりと「おかしな奴め」と呟いた。




思ったよりもスラグホーンが多くの生徒を呼びつけていたことに、シリウスは容赦なく舌打ちした。とリリーを探すには人の判別がつき難いうえ、何かと声をかけられては足止めを食らう。

「まあ、ブラック。素敵なお洋服ね!」
「少し話せないかしら?」
「悪いけど、人探してるから」

こんな会話の繰り返しに、そろそろ嫌気が差してきた。名前も覚えてないような生徒たちに声をかけられても鬱陶しいだけだ。それは傍らでいたる所へ視線を巡らせている相棒も同じのようだ。

「どうしてとリリーは見つからないんだと思う?」
「エバンスが上手いこと逃げてるか、俺たちが最高に不運なのかのどっちかだろ」
「・・・とりあえず後者ではないみたい」

急に目つきが鋭くなったジェームズの目線を追って、シリウスはようやく見つけた燃えるような赤髪と控えめなハニーブラウンの後ろ姿に声をかけようと口を開く。

「おい――っ・・」

だがその奥に佇む暗い影に気付いた途端、その表情に激しい険が宿った。一気に早歩きをし出した二人は、それぞれとリリーの背後に立って、正面にあるセブルスの黒の双眸を睥睨した。




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2009/11/22