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マリアの爪痕 23.急いで準備を クリスマスまであと数日という今日。すべての授業終えた後、はリリーに手を引かれるまま寮へと戻っていた。何をそこまで急いでいるのかはわからないが、彼女の剣幕に逆らえるはずもなく、は息を切らせて部屋へと駆け込んだ。数分の間は二人して肩で息をして、この冬という季節にそぐわない汗を拭う。 「二人とも、随分早いじゃない」 おもむろに扉を開け放ったプラムはくすりと笑い、モニカとともに部屋へ足を踏み入れる。今日も彼女の蜂蜜色の髪はさらりと流れ、絡まることを知らない。少しだけその髪に見惚れただが、すぐに目を瞬かせて三人に疑問を投げかける。 「何でこんなに急いで部屋に来たの?」 首を傾げるを見て、三人はぷっと噴き出して笑った。特にモニカは容赦なく笑うものだから、変なことを聞いてしまったのだろうかと不安になってしまう。ついには涙目になり始めたの頭をぽんぽんと叩いて、プラムはいつの間にか手にしていた櫛を見せた。 「今日はクリスマスパーティーなんでしょう?せっかくなんだから、おしゃれをしていかなくちゃ」 「おしゃれ・・?」 「そうそう!うんと可愛くしてあげるからね!!」 いそいそとたくさんの洋服を取り出すリリーとモニカを目にしながら、はプラムの誘われた椅子に腰かける。結われていた二つの髪が解かれ、のハニーブラウンの髪がふわりと広がった。プラムの髪とは違い、の髪は緩く波状だ。その髪に丁寧に櫛を入れながら、プラムは楽しげに微笑んでいた。 「私もウェーブをかけようかしら?」 「え、何で?プラムはせっかく綺麗なストレートヘアをしてるのに・・」 「ありがとう。でも、の髪もふんわりしてて可愛らしいわ」 「そんなこと、な、ないよ」 褒められているのが自分自身だと、慣れなくて妙にくすぐったい気持ちになる。 はプラムのような、真っ直ぐ伸びたさらさらのストレートヘアに憧れていた。だから自分の波状の髪質を可愛らしいなどと褒められてしまうと、この上なく恥ずかしくてつい照れてしまう。モニカなんかはいつもプラムの髪を羨んでいる。彼女の髪質は独特で、その栗毛はボリュームたっぷりにカールしているのだ。髪を伸ばしたくても毛質も柔らかくなく、むしろ固いのでよけいに酷い目に遭うらしい。 「今日の髪型はいつもとはうって変えてみましょう」 「ねぇ、この朱色のストール素敵じゃない?きっとリリーに似合うわ!」 「そうかしら。でもこのワンピースは、きっとに着せてみたら良いわね」 華やぐ女の子らしい会話に、なんだかは自然と表情が綻んでいった。こういった洋服や髪型、化粧などの話をあまり話題にしてこなかったからだろうか。自分は今、みんなと女の子同士の付き合いをしているんだな、と思うと、とても嬉しく思えた。 「楽しみだなぁー・・!」 「お前、さっきからそればっかだな」 「だってやリリーとクリスマスパーティーだよっ?期待くらいするさ!」 いったい何の期待だよ、という言葉を喉の奥へと追いやり、シリウスは嘆息した。一度寮で着替えてからずっとこの調子のジェームズに、そろそろ嫌気が差してくる。 二人の出で立ちは普段着ている制服のローブとは打って変わり、ともに黒い礼装だ。さすがに首元のネクタイは緩いままだったが、久しぶりに感じる衣服の窮屈さだった。 「・・あのさ、二人とも」 ソファに座って互いを小突き合っていた頃、おずおずとした声が耳に入る。その愛らしい鈴の音のような声音は、モニカのものだ。 「すんごく言いにくいんだけど、とリリーならもうパーティーに行ったわよ?」 モニカはこみ上げてくる笑いを堪えているようだった。必死に取り繕っているものの、腹を押さえている上に頬の筋肉がしきりに引き攣っている。これでは逆にこちらが不快になるというものだ。数秒の間呆けたジェームズは正気を取り戻すと、掴みかからんばかりの勢いでモニカを問いただした。 「ちょっと待って!僕らはずっとここで待っていたんだよ?いったいいつの間にっ?」 「二人が談話室に降りてくる少し前から。本当はすぐに教えてあげたかったんだけど、リリーに口止めされちゃってさ」 どうやらこれは、リリーに一杯食わされたようだ。 ジェームズとシリウスが自分たちを待つことがわかっていた彼女は、それより早くに準備を済ませ、一緒に行けないようにしたわけだ。これはよほど女の子二人だけで過ごしたかったのか。それともただ二人と一緒にいたくなかったのか。どちらにせよ、あまり悠長にはしていられなさそうだ。 「ふ・・・・ふふふふふ・・」 「ジェームズ?」 「さすがだよ、リリー。ここまでして僕らを避けようだなんてね」 不気味に笑いだしたジェームズの瞳は、激しく燃え上がっている。なんとも呆れるような光景だが、シリウスは小さく笑い、親友に頷いて見せた。 「けど、これくらいで諦めたりしねぇんだろ?」 「当たり前じゃないか!」 そう言って片目を瞑るジェームズに続き、シリウスは駆け出した。 |