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マリアの爪痕 22.スラグホーンの招待 魔法薬学の授業中、いつもの調子で授業課題をすぐにやり終えてしまったシリウスは、ジェームズと一緒にリーマスの面倒を見ていた。相変わらず煎じ方が下手くそなので、二人であれこれ説明するのにも手間がかかる。他の授業ならば要領よく物事を進められるくせに、なぜこの授業だけこうなのか。シリウスとジェームズには甚だ疑問であった。 「そういえば、もうすぐクリスマス休暇なんだね」 ふと思い出したように言うリーマスは、これまた分量の違う薬草を鍋に放り込もうとしている。それを素早く阻止したジェームズが頷き、分量を減らしてから鍋に入れた。 「ああ、もうプレゼントの準備は万端さ!!」 「それって、とリリーの分のこと?」 「もちろん!あ、でもちゃんとキミたちのことも忘れてないからね」 「そりゃどーも」 もう少し経てば、すぐにクリスマス休暇がやってくる。今年もどうせどこかの純血一族の屋敷で仰々しいパーティが開かれるのだろう。そして、自分はその席に必ず出席させられるに違いない。 子供にとっては楽しみなはずのクリスマスだというのに、シリウスからは溜息しか零れない。親の許へ帰ることがこれ以上の苦痛はないと思うほど、憂鬱に感じる。それほどまでに、ホグワーツでの生活は豪華な屋敷などよりずっと快適だったのだ。今までは屋敷内での習い事や礼式的なパーティなど、狭い世界のことしか知らなかった。だが今はそうではない。他の若い魔法使いたちの生活を知り、彼らと同じように過ごしたいと思っている。シリウスは決心していた。いつまでも、親の言いなりでいるつもりは毛頭ない。 「みんな、家に帰るよね?」 「僕は帰るよ」 「・・俺も」 「じゃあ帰りの汽車も一緒に乗れるね」 そういえば、リーマスの母親の容態は、その後どうなったのだろうか。先月リーマスは母親の体調が芳しくないため、一時帰省をした。すぐに学校に戻ってきていたので気にしていなかったが、現在はどうなっているのだろう。暇が見つかればすぐに聞こうと思ったその途端、シリウスの肩に小さめの、けれど太い指が伴っている手が置かれた。シリウスは怪訝そうな顔つきで振り返り、その手の持ち主のスラグホーンを見た。 「・・何か用ですか?」 「ほっほう!ミスター・ブラックにミスター・ポッター。実は来週に私が開くクリスマスパーティに、君たちを招待したくてね」 「クリスマスパーティ・・ですか?」 どうやらそのパーティは、スラグホーンのお気に入りの生徒たちが集まる、いわばドリームチーム限定の催しらしい。シリウスとジェームズは毎回こういった類の誘いを全て断っていた。参加することに魅力を感じないし、何よりそんな時間を過ごす暇があるなら他の遊びでもしていたほうがずっと有意義に思える。それでもスラグホーンは熱心に二人を誘ったが、開かれた催しにはただの一度も参加したことがない。もちろん、シリウスは今回のパーティだってすぐに断る気でいた。ジェームズだってきっとそうだろう。 「・・すみませんが、」 「ぜひ行かせていだたきます!!」 「はっ・・・?」 隣に佇んでいた親友が発した言葉に、我が耳を疑った。いつもなら上手く誤魔化して約束を避けるジェームズが、スラグホーンのパーティに自ら行くと断言するとは。いったいどういつ風の吹き回しだろう。不思議で堪らない、という顔のシリウスにリーマスがぼそりと耳打ちした。 「さっきとリリーも誘われてた。二人が行くから、ジェームズも行く気になったんじゃない?」 なるほど。きっとそうだ。 シリウスはすっかり納得し、まったく、と黒い髪を掻き上げた。本当は、心から行きたくないのだ。 「!リリー!」 すたすたと先を歩く女の子二人を追いかける明るい声音が廊下に響いた。渋々といったふうに振り返るリリーの顔は、大層不本意そうにむすっとしている。毎回のことではあるが、こんなに嫌そうな顔をしている女の子によく平然と話しかけられるものだ。飄々とした表情をまったく崩さない親友に呆れを覚えるが、同時に感心さえしてしまう。そんなリリーの睨みから逃げるように視線を泳がせると、と目が合った。 「クリスマスパーティ、スラグホーンに誘われたよな?」 「え?・・う、うんっ」 「行くのか?」 「えと、せっかくだからって。リリーと一緒に・・・」 瞳を忙しく瞬かせるを急かさず、シリウスはゆっくりと彼女の言葉に耳を傾けた。初めの頃は慣れなかったが、今では会話の成立など当たり前のこととなった。以前ほどは話下手ではないし、自分も相手の言葉を待つことを学んだ。きちんと相槌をしてやれば、は安心して言葉を発せられるのだ。 「奇遇だね!!僕らも丁度誘いを受けたところだったんだ!」 いけしゃあしゃあと言うジェームズを見る目は、自分を含め冷たいものが多い。シリウスもリリーもリーマスもピーターも。「何が奇遇だ」と顔に書いてある。 「じゃあ一緒に参加できるねっ、嬉しいなぁ!」 「・・言っておくけど、べつに貴方たちと一緒に行くわけじゃないわ。わたしはと二人で行くんだから」 「いやだから、そこに僕たちも――」 「嫌よ」 そんなぁ、と眦を下げ、ジェームズが泣き言を喚き出す。だがリリーも頑なに断固拒否を貫いている。シリウスは呆れてものを言う気も起きなかった。はというと、困ったようにおろおろと視線を彷徨わせている。 「どうせパーティでは逃げられないって。リリーが断っても結果は同じだな」 「僕もそう思うよ」 「でもいいなぁ。クリスマスパーティ・・」 羨ましそうに呟いたピーターは、自分はスラグホーンに誘われなかったことを思い返し、深く項垂れる。リーマスは苦笑して、僕も誘われてないから、と励ましの言葉をかけた。 リーマスは魔法薬学が不得意だ。他の教科の成績はなかなかのものだが、要領が良いだけでは目立つことも少ない。そんな事情で、リーマスはスラグホーンのお眼鏡には適っていない。しかし自分自身でも望んではいない様子だから、特に問題はないのだろう。 「出来の良いお坊っちゃんやらお嬢様ばっかのパーティが楽しいわけないだろ」 「でもシリウスは行くんでしょ?」 「それはまぁ、ジェームズが受けちまったしな」 言葉を濁すシリウスを、ピーターは羨望の目でしか見ることができないようだった。 これ以上何かを言っても、自慢にしか聞こえなさそうだ。 そう判断したシリウスは観念し、言わざるを決め込んだのであった。 |