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マリアの爪痕 18.クィディッチの特訓 クィディッチとは、単に箒に乗って自由に競技場を飛び回ればいいというスポーツではない。 まず第一に、片手で箒に乗ることができなければゲームにはならない。 クアッフルやスニッチを掴むにも、棍棒を振るうにも。何にせよ片手で操縦ができなければ話にならないのだ。 そんな初歩的なことに躓く者が、ここにはいる。 「、まずは放してみろって。な?」 「・・・・・こ、わい・・っ」 怖いと言われては、無理矢理になんてできっこない。 すっかり畏縮しているを見て、指導するシリウスは黒い髪に指を埋め、頭を悩ませた。 その腕にはクアッフルがあり、空中でにパスができるように練習をしているのだが、これがなかなか実現しない。 は片手で箒を操ることに酷い恐怖心を抱いているようで、まったく柄から手を放そうとしないのだ。 確かに初めはバランスを失いがちになるが、練習すればそんなに難しいことではない。 自らの経験上そう信じているシリウスにとって、の怖れは大きな課題だった。 チェイサーは三人で卓越した連携技を見せてこそ、良い試合ができる。 その点では、シリウスとモニカは何も問題がなかった。 二人とも幼少時代から箒に乗ることに慣れていたため、片手で箒とボールを操ることには長けていたし、パス回しも練習してなんとか形になっていた。 だが肝心の問題はだ。 今片手で箒に乗れなければ、試合はおろか練習さえままならない。 モニカが大丈夫大丈夫!と励ます中でも震えているを目に、シリウスは考えた。 視界の隅に鳶色の髪が映り、リーマスがやってきたことを認識する。 「、すごく緊張しちゃってるね」 「そう思うならどうにかしてくれ!俺が言っても聞いてくれねぇし・・っ」 「それはキミがだんだん眉間に皺を寄せているからさ。きっと怒ってるって思われてるよ」 「はっ?」 ジェームズの指摘は、まさに正解のようだった。 はことあるごとにシリウスを窺うように顔を上げては、すぐに俯いてふよふよと頼りなく空を舞っていた。 まるで何かに怯え、糞爆弾を避けるようにして飛んでいる。 その原因がまさか自分にあったとは。 だがこれは決して怒っているわけではない。心から悩んでいるのだ。 「・・・・・どうすりゃいい?俺怒ってねぇんだけど」 「わかってるよ。でもにはそれが怖くてしょうがないし、チェイサーをやり切る自信も湧いてこないみたい」 「とにかく、ここは僕らでどうにかしないといけないね!」 ジェームズがばちっとウインクを決めたものの、シリウスは不安を拭い切れない表情をしていた。 頼むからこれ以上あいつを困らせないでほしい。 そう思う反面、自分では手の尽くしようがないことを思い知っていたので、何も言うことができなかった。 「!ちょっと僕らと練習しようよ!」 そうジェームズが呼ぶと、はびくりと躊躇した後、こちらまでやってきた。 そのとき、彼女が自分をちらりと見たものだから、シリウスはなるべく笑顔でいることを心がけた。 心なしか、は安心したような顔をしている気がする。なんだかとても複雑な気持ちだ。 「あの、私・・まだ片手で箒に・・・乗れない、よ?」 「大丈夫!それを僕らと一緒に練習しようと思ったんだ」 「で、でも・・・」 「。一緒にやろう?」 リーマスが優しく囁き、の落ち着きを取り戻させる。 ジェームズの任せてよ!という自信や、安心感を与えてくれるリーマスの優しさが、彼女にとって大きな励みになる。 それを痛感したシリウスは、少し悔しい気持ちに駆られた。 なんだかずるいと思う。初めて箒に乗れるようになったのは、自分のおかげだというのに。 今回は自分じゃ役不足なのだと思うと、歯痒くてならない。 「じゃあまずは、僕に掴まって飛んでみようか」 「リーマスに?」 「うん。片手を放すことに慣れなきゃね」 「わかった・・」 「ああ、もっと低い場所でやろう!そのほうが怖くないだろう?」 自分を気遣ってくれる親切な言葉に、は口元を綻ばせる。 さっきはせっかくシリウスが練習に付き合ってくれていたというのに、がちがちに固まってしまった身体が上手くいうことをきかず、シリウスの協力を無碍にしてしまっていた。 それがとても申しわけなくて、はシリウスの顔を見ることができなかった。 今でも彼が心の中で怒っていたり、呆れていたりしたらと思うと、怖くてしかたがないのだ。 だが今は、ジェームズもリーマスもそれを感じさせない笑みを見せてくれている。 安堵の表情でいるは、素直に二人に従い、高度の低い場所でリーマスの腕を取りながら練習をした。 「そうそう、その調子だよ!」 「、怖がらないで。僕の腕をしっかり握って」 「・・・・っ、・・・わわ!」 操縦を片手のみで行うのは、思ったよりも難しいことではなかった。 ただ上手くバランスを取るのに調節が難しく、は何度も左右に揺れて飛行していた。 ジェームズは前方で的確に指導を行い、慌て出せばすぐにリーマスが安心させる。 なるほど、これなら効率良く練習ができるだろう。 不覚にも感心してしまった後、シリウスはそんな自分に自己嫌悪にも近い溜息を吐いた。 俺は何をしているんだろう。 少し離れた所では、リリーとプラムがピーターに厳しい指導をしているのが見えた。 モニカは笑ってそれを見ている。 「ま、待って!僕、棍棒を持ったままじゃ、速く飛べないよ・・っ!」 「何言ってるの。これから速く飛んだままブラッジャーを打つ練習をするのよ?これくらいで根を上げていては駄目だわ!」 「そうよ、ピーター。まだ弱音を吐くには早いわ!」 とても最近箒に乗り始めたようには思えない速度で飛び交うリリーとプラムの後ろで半泣きになっているピーターは、ひぃひぃと息を上がらせている。 強気で精神が余計なくらい屈強な二人だ。これからもっとしごかれるに決まっている。 その光景がとても気の毒に思えたシリウスは、心の中だけでピーターの無事を祈った。 我が友人に幸あらんことを。 |