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マリアの爪痕 17.男尊女卑は許さない 「よし、そうと決まればまずはチームとポジションを決めないとな!」 シリウスが切り出したところで、ようやくジェームズはリリーのお説教から逃れることができた。 自分が怒られていたわけでもないのに、ピーターは救われたような顔をしている。 既に周りでは他の生徒たちがチームを組み始めていた。 もたもたしてはいられないとばかりに、ジェームズとシリウスは足踏みをし出す。 「まずはメンバーだけど、あと一人集めないといけないね」 「ちょっと待ちなさい!わたしとも頭数に入れているのっ?」 「当然じゃないか!そうでなきゃ、キミたちは誰と組む気でいるのさ!」 全快といった感じのジェームズは食えない笑みを浮かべている。 とリリーがジェームズたちと同じチームに入るのは、もはや決定事項らしい。 つまり、人数は現在六名集まっているので、七名で行うクィディッチにはメンバーがあと一人は必要なのだ。 「誰かいないかな・・?」 「さあ?もう結構組んじまってるし――」 「あっ、モニカ!プラム!」 困った表情をしたシリウスの隣で、リリーが大きく手を振った。 その目線の先には二人で固まって行動しているモニカとプラムがいた。 二人はリリーの呼びかけに気付くと、早足でこちらまで駆けてきた。 モニカは相変わらずのくせっ毛を揺らし、えへへと笑顔を見せる。 「もしかして、まだチームが決まってないの?」 「ええ、少し話し込んでいたら、いつの間にか取り残されちゃってて」 溜息を吐きながら蜂蜜色の髪を背に流すプラムは、じろりとモニカを睨みつける。 苦笑しているモニカがごめんと言ったところを見ると、どうやら大きな原因はモニカにあるらしい。 「じゃあ、僕たちと組もうよ!僕たち、丁度人数が足りていなかったんだ」 「本当っ?よかった〜!」 「でも、一人余分になってしまうんじゃない?それでもいいの??」 単純に喜んだモニカとは対照的に、プラムはここにいる人数が全員で八名いることに気がつき、ジェームズに問いかけた。 ジェームズは心配ご無用、とリーマスの肩を叩いた。 「ああ、それなら問題ないよ」 「最来週の火曜日が初めての試合らしいんだけど、僕、用事があって授業に出られないんだ」 「リーマスが?」 「うん。だから交代制にしてもらえばフーチも良いって言うと思うよ」 リーマスが最来週の火曜日の授業に出られない。そんなことは初耳だ。 は何があるのだろうかと首を傾げたが、リーマスは何も答えず、ただ曖昧な笑みを見せただけだった。 話が一区切りついたところで、シリウスが指を鳴らし、次の決め事へと進行させる。 「じゃあ次はポジションだな!どうする?」 「僕は絶対シーカー!!!」 「あーわかってるって・・」 「あたしはチェイサーがいい!小さい頃よくやってたから!」 真っ先に希望を出したこの二人から、そのポジションを奪おうなどという気は起きなかった。 それくらい、この二人は騒ぐと厄介だからだ。 は自分がどのポジションに適しているのかを考えてみたが、これがなかなか決まらない。 悩むの目の端で、さらさらの金髪が靡いているのが見えた。 「じゃあ私はビーターがいいわ」 プラムのその一言に、みんなは揃って瞠目した。 一斉にいくつもの視線を受けているにもかかわらず、彼女は涼しげな表情で首を傾げた。 「あら、何かおかしい??」 「・・・・フローレンス、キミはビーターの役割を知っているかい?」 「ブラッジャーを棍棒で打って、味方を守り、あわよくば敵にあてるんじゃないの?」 「その通りだ!」 「何で知ってて女のお前がビーターを希望するんだよ!?」 信じられないとでも言いたげに、二人は大袈裟に驚いてみせた。 それは無理もない反応だった。プラムは女の子にしては背が高いほうだったが、華奢な体つきをしている。すらりと伸びる手足はとても細いのだ。 仰天しているジェームズとシリウスの反応に機嫌を悪くしたのか、プラムは可愛らしい眉間に皺を寄せて二人に言い放つ。 「選手に男も女も関係ないわ。要は実力よ。見てなさい、きっとびっくりするから」 ふん、と鼻息を荒くして言い切ったプラムに、とピーターが羨望の眼差しを送る。 気の弱い二人は今の彼女の発言に感動していたのだ。 「ぼっ、ぼくもビーターをやる、よ!!」 「はあっ?!ピーター、正気かよ!?」 「ぼくも頑張って・・・・みたい、んだ」 ぷっくりとした頬を真っ赤にしながら、ピーターはシリウスに宣言した。 まさかあの臆病なピーターが、自ら危険なビーターを希望するなんて。 その意外な言動に一同は驚きを隠せない。しかし、この一大決心は彼にとってきっと良い経験になるだろう。 はシリウスにぶんぶんと首を縦に振って、了承を促した。 シリウスはまだ呆気に取られた表情をしていたが、やがて溜息を吐いて片手を上げる。 「・・・わかった。そこまで言ったんだ、しっかりやれよ?」 「う、うん!!」 色の薄い丸い瞳を輝かせ、ピーターは笑顔で頷いた。 「頑張りましょうね、ピーター」 プラムがそう言ってピーターの肩を叩くと、ピーターは今度は耳まで紅潮させ、ふるふると震えていた。 その様子がなんだか微笑ましくて、は隣に佇むリーマスと顔を見合わせて笑った。 「リーマスはどうするの?」 「そうだな・・あと決まってないのが、チェイサー二人とキーパー一人だから・・」 「あ、俺チェイサーがいい」 今までピーターをからかっていたシリウスがそう言うと、リーマスはそれなら、と微笑んだ。 「シリウスがチェイサーなら、僕はキーパーだね」 「ちょっと待ってリーマス、そんな理由で決めてしまっていいのっ?」 あっさりとシリウスの意向に合わせてしまったリーマスに、リリーは驚いたように問いかける。 もそんなの申し訳ない、というふうにリーマスを不安げに見つめた。 その思いとは裏腹に、リーマスは快く了承している。 「いいよ、僕はどちらでも良かったし。それに、女の子にキーパーなんかさせられないよ」 「それもそうだね。じゃあとリリーはどうする?どっちかが控えになるんだけど・・」 「・・・わかったわ。わたしが控え選手になる」 「え、でもリリー・・!」 当然、控え選手になるであろうと思い込んでいたは、思わず声を上げた。 ジェームズも同じ気持ちでいたのか、目を丸くして驚いている。 リリーは腕を組んでリーマスを一瞥すると、はっきりとした物言いでこう言った。 「その代わり、わたしはキーパーの控え選手になるわ」 「えぇっっ!!?」 一同から再び驚愕の声が上がる。 キーパーはゴールを守るという大役を持つ、とても大切なポジションだ。 女の子にやらせるにはいささか不安があるらしく、ジェームズもリーマスもすっかりとリリーをキーパーにはしないつもりでいた。 だがその計らいに反し、リリーは先ほどのプラムのように堂々と自分の意見を述べる。 「そもそも、ビーターやキーパーは女の子にできないだなんてとんだ勘違いなのよ。どのポジションだろうが、誰にだってこなせるわ!」 「で、でもリリー?キーパーって、すごく危険なんだよ?!」 「クィディッチ自体が危険な競技だと思うけれど?」 「いや、そうなんだけど・・!」 どうやらジェームズはリリーに怪我をしてほしくはないらしく、しきりにシリウスやリーマスを見つめて加勢を求めていた。 しかし、ここに集まる者の中にリリーの意見を覆すことができる人物などいないに等しいのだ。 それを理解していてか、リーマスは困ったように笑いながらもリリーの言葉に了承した。 「わかった。僕がいない間のキーパーを任せるよ」 「ええ、任せてちょうだい」 自信たっぷりに返事を返したリリーは、満足げに頷いた。 ジェームズが嘆くように呻きながら頭を抱えているのを見た後、ははっとして自分の置かれた状況を思い返す。 こうしてリリーがめでたくキーパーになった、ということは。 はぱちぱちと瞬きを繰り返し、ジェームズの黒いベストの裾を引っ張った。 「ん?どうしたんだい、」 「私って、チェイサー・・・なの?」 「ああ、そうなるね!これで全員ポジション決定だ!!」 嬉しそうに笑顔を見せるジェームズに、は言う言葉がなかった。 みんなはもうやる気満々の表情で返事を返している。このポジションで練習をしていく覚悟ができているのだ。 ただ一人、を除いて。 私なんかで大丈夫なのだろうか。本当はそんな思いでいっぱいで、ほとんど喉までその不安がせり上がっていた。 飛べるようになるのが他の人たちよりも遅かったという過去もある。 他の人たちに迷惑をかけてしまうのでは・・そう思うと、とてもじゃないが箒に跨る気分にはならない。 冷たい風が頬に吹きつけ、はそっと目を伏せて溜息を零した。 |