何でよりによってこんな日にこんなヤツとこんなことをしているんだろうっ?




嘘吐きなに差し上げよう




せっかくのハロウィン当日、私は今や人気のなくなってしまったグリフィンドール寮にシリウスと二人っきりだった。この際はっきり言おう。不愉快だ!
こんな最悪な状況の理由は、数時間前に遡る。


お昼過ぎに寮を出て、マクゴナガル先生に変身術のレポートを提出しに行った後のことだった。私はそのとき、ある光景を目にした。
同じグリフィンドール生であり相当な問題児であるあの二人組が、糞爆弾を片手に何やら笑って話し合っていたのだ。そのこそこそとした様子を一目見て、私はすべてを悟った。きっとまたろくでもない悪戯を企んでいるに違いないと。そしてそれが成功すれば、確実にまた寮から点が引かれてしまう。それでなくとも、先日積み上げた本の上からフリットウィック先生を落下させ、大幅に減点されたのだ。これ以上、グリフィンドールの点を落とすわけにはいかない。
私は臆することなく、つかつかと二人の傍まで歩み寄り、杖を
振った。

「アクシオ!」
「えっ?あ・・あーーー!!」

!てめぇ、何しやがる!」

二人の手から飛んでくる糞爆弾を抱え込み、私は憤然とした態度でジェームズとシリウスを睨みつけた。

「そういう貴方たちは、いったい何をしようとしてたのかしら」
「みんながハッピーになれる、素敵なサプライズを準備してたのさ!」
「あら残念だったわね、糞爆弾じゃ普通の人はハッピーになれないのよ?」

素早く伸びてきたジェームズの手を避け、もっともな意見を言ってやる。しかし今更彼らにそんな正論が通じるわけもなく、二人は何度も手を伸ばし、糞爆弾を取り返そうと躍起になっていた。

「べつに面白けりゃいいだろうが!」
「その面白いことに巻き込まれて、迷惑を被る人間がいるのよ!」
「ハハッ、嫌だなぁ!それってただの被害妄想じゃないのかい?」
「つーか、いい加減返せっての!!」

数歩後退した後、私はくるりと踵を返し、一目散に走り出した。この二人相手では分が悪過ぎる。ここは早く寮に帰って、リリーに加勢を求めたほうがいい。後ろから聞こえてくるシリウスの声を無視し、廊下を欠け抜け、階段を一段飛ばしで上っていく。しかしジェームズとシリウスの足の速さは私とは比べものにもならず、すぐに追いつかれそうになる。

「追いかけっこは終わりだよ!」
「残念だったな!」

にこにことした笑顔で迫ってきたジェームズの手を掻い潜ったつもりが、次に現れたシリウスの手によって、私の片腕が捕まえられた。強く腕を掴まれているせいか、よけいに腹が立つ。
私は何一つ悪いことなどしていないのに、何故追いかけられなければいけないのだろう?
理不尽な彼らの行動に唇を噛み、私は思い切り腕を振って暴れた。

「放しなさいよ馬鹿!」
「馬鹿って何だよ?!お前のほうが成績悪いくせに!」
「悪くはないわよ!貴方こそ、その素行の悪さを直したらっ?」
「お前がそのじゃじゃ馬なトコ直したらな!!」
「誰がじゃじゃ馬よ!ばかばかばか!」
「何回も言うな!・・っておい!馬鹿!!」

シリウスとの口論の最中、私は糞爆弾を抱えていたほうの腕で彼を攻撃してしまい、その拍子にごろごろと糞爆弾が床に転がっていく。しまったと思ったときにはもう遅くて、思わず目を閉じた私は、爆風と爆煙の中で誰かに突き飛ばされた。廊下にうつ伏せとなり、少し腕を擦ったような摩擦熱を感じた。痛い。
小さな爆発が続き、ようやくそれが治まって、私が身を起こしたときに見たものは、顔を煤だらけにした真っ黒なシリウスの姿だった。
・・・どうやら私を突き飛ばしてくれたのは、シリウスだったらしい。




その騒ぎに最初に気がついたマクゴナガルは、怒声を放って怒り出し、私とシリウスの二人に罰則を与えた。ジェームズが罰則を逃れたのは、爆発の際、最早彼がその場にいなかったからだ。私たちの喧嘩を見て糞爆弾爆発の危険を察知し、いつの間にか一人だけ難を逃れていたのだ。まったくなんて人だろう!
罰則の内容は「変身術の試験模擬問題をひたすら解くこと」だった。分厚い冊子を手渡され、これがすべて終わるまでハロウィンパーティーに出てはいけないとまで言われてしまった。私はただ、悪戯をしようとしていた二人を阻止し、その場から逃げていただけなのに。こんな不条理な話があってたまるか!


私は黙ってひたすら、問題を解いては羊皮紙に書いてを繰り返していた。時計の示す時間を見て、なんとか自分を奮い立たせようと気合を入れる。もうハロウィンパーティーは始まってしまっているが、あと数ページでこの地獄から解放されるんだ。それまで頑張ろう。そうだ、頑張るしかないんだ。
実を言えば私は変身術が得意ではない。むしろ不得意だ。提出したあのレポートも、本当は授業中の課題であったのに、私は時間内に完成させることができず、後から提出をするハメになってしまったのだ。
模擬問題の内容はそこまで難解なものではなかったが、さすがに最後の辺りは難しい。私はつい手を止めて唸り声を出し、首を傾げてしまう。

「・・・・えーと・・」

ああ、そうだ。たぶんこれだ。
ずっと悩んでいた解答を記述し、ひとまず羽根ペンを置く。一度伸びをして、ふとシリウスのいるソファに目を向けた。すると予期してもいなかったことだが、私はシリウスとばっちり目を合わせてしまったのだ。近くのソファに腰かけて悠然と足を組んでこちらを見ているシリウスに、私はつい口を尖らせた。

「呆れた。早くやっちゃいなさいよ。そんなんじゃ、いつまで経っても終わらないわよ?」
「もう終わってる」
「え?」

そう言って彼が寄越した数枚の羊皮紙には、びっしりと模擬問題の解答が並んでいた。私は目を丸くして驚き、思わず感心してしまう。
あれだけの量を、もう解き終わっていただなんて。
すごい、と素直に感心して頷いたものの、なんだか悔しくも思った。シリウスの言うとおり、私はシリウスより成績が悪い。そんなことは知っている。だが、だからといってこんなふうに見せつけられると・・。ふっと湧いた苛々を言葉にしようと口を開きかけたとき、シリウスがソファから立ち上がってこちらに向かってきた。無造作に私の隣に座り、解答を書いた私の羊皮紙に目を落としている。

「・・・なぁ。これ、間違いだらけだぞ?」
「えっ?」
「お前、変身術苦手なんだな」

勝ち誇ったように笑うシリウスの笑顔に頬を引き攣らせ、私は憎まれ口を叩く。

「そうよ、悪い?どうせ私は貴方より成績の悪いお馬鹿さんよ」

開き直ったようにぶつぶつ言えば、シリウスは今度は馬鹿にするでもなく、ただ羊皮紙の解答を指で叩いて、私に羽根ペンを持つよう指示した。

「俺が教えてやるよ」

そう言ったシリウスの顔をまじまじと見つめ、目を瞬かせる。まさか、そんなことを言うとは思っていなかった。





結局私は彼の申し出を断れず、素直に教えてもらうことにした。一刻も早くこの二人だけの空間から逃れたかったし、ハロウィンパーティーにも行きたかった。背に腹は替えられない、とはこのことだろう。
しかしお決まり事ではあるものの、なかなか私は彼の言うことを理解しない。

「だから、違うんだって」
「何で?だってさっきはこっちで良かったじゃない」
「いやいや、こっちはそれとはべつなんだっての!」

「何で?」と疑問符を浮かべて質問を繰り返す私に対し、どうしてかシリウスは笑っていた。その笑顔は、ちょっとその・・・やっぱり顔が良いだけあって、魅力的である。

「お前、間違えすぎ」
「だ、だってわかんないんだもん!!」
「とか言って、本当はわざと間違えてんじゃねぇの?」
「はぁ?」

そんなわけがない。こっちは必死なのだ。
そう弁解しようとしたが、現在自分の置かれている摩訶不思議な状況を視認し、そうもいかなくなった。

「俺の気を引きたくて、さ」

いつになく真剣な眼差しで見据えられ、言葉を失った。無意識に手から力が抜け、羽根ペンが床に落ちた音がした。
ど、どうしてシリウスの顔がこんなに近いのだろう?さっきまでは距離感なんて気にならなかったのに。
気づかないうちに急接近していたシリウスの灰色の瞳から目を逸らし、私はなんとか後ろへと退く。だが逆にシリウスはどんどん顔を近づけてきて、まるで私の反応を楽しんでいるかのようにも見える。
おかしい。顔が熱くて、目が痛い。涙が出そうになる。

「・・やっぱ意識してんじゃん」
「し、してない!」
「じゃあ、確かめてやるよ」
「え、あっ、ちょっと・・っ!?」

反論する間も与えられず、私はソファに組み敷かれていた。そして一瞬にして唇を塞がれ、息ができなくなる。

「んんっ・・・!」

びっくりしすぎて、何もできなかった。ぎゅっと目を瞑って、ほとんどないような力で彼の肩を掴んでいた。


どうして私、シリウスとキスしてるんだろう?ただわかったことは、シリウスの唇は優しくて、私を慈しむようにそれが重ねられていたということ。
一度唇を離されて一気に浅い呼吸を繰り返し、すぐにまた奪われる。何度も何度も。啄ばむような優しいキスに、私はされるがままとなっていた。


「・・・・嘘吐きだな、お前」

嫌がることもなく口づけを受け入れていた私を見下ろし、濡れた唇を指の腹で拭いながら、シリウスはにやりと笑った。





...end 2009/10/29
(Happy Helloween!)